ボストンに留学していた頃、語学学校の授業で初めて自分から発言した日のことを、今でもよく覚えています。日本の大学を休学しての留学生活は、すべてが新鮮で刺激的でしたが、同時に不安や緊張も大きなものでした。特に授業で発言することは、私にとって最も大きな壁のひとつでした。
クラスにはブラジルや韓国、ヨーロッパから来た学生も多く、みんな積極的に発言していました。先生が質問すると、間を置かずに手を挙げて英語で意見を言う姿に、圧倒されると同時に「自分も何か言わなければ」という焦りを感じました。しかし、いざ声を出そうとすると、頭の中で文章がぐるぐると回り、正しい文法や単語が浮かばず、結局黙ってしまうことが続きました。
ある日の授業で、先生が「昨日の夜は何をして過ごしましたか?」と全員に質問しました。順番が近づくにつれて心臓の鼓動が早くなり、手のひらには汗がにじみました。ついに自分の番が来たとき、頭の中は真っ白でした。それでも勇気を出して「I went to the supermarket and cooked pasta」と、ぎこちない英語で答えました。クラスの仲間が笑顔でうなずき、先生も「Great! What kind of pasta?」と優しく返してくれました。その瞬間、胸につかえていたものが少し軽くなった気がしました。
たった一文の発言でしたが、自分にとっては大きな一歩でした。その日をきっかけに、間違ってもいいから発言してみようという気持ちが芽生えました。完璧な文法でなくても、伝えたいことを表現する勇気が大切なのだと気づいたのです。授業の中で少しずつ声を出すようになると、友達との会話も自然に増え、留学生活全体が楽しく広がっていきました。
今振り返ると、アメリカ・ボストン留学をシニアでしたクラスメイトに、色々アドバイスも頂きました。あの日の小さな発言が、その後の自分を大きく変えたのだと思います。留学中の緊張や不安は誰もが感じることですが、それを乗り越える一歩は、意外と身近な日常の中に隠れているのかもしれません。